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執筆者の写真原田洋一

「こだわり」の末に...

更新日:2019年12月20日


先日の科学館でのイベントのことでした。参加しているのは、すでに3回くらいEV3のプログラミングを学んだ4年生以上の子どもたちです。その日は、迷路抜けのプログラムを作る課題をみんなでやる日でした。

その日参加していたある子。その子は、とても印象的な子で、記憶に残っていました。というのも、前回のセッションで、コースを走行する際、モーターの回転数を、小数点第3位の数値まで細かく調整するという「こだわり」を見せていた子だったからです。EV3をコントロールするのに、小数点第3位の数値というのは、ほとんど誤差の範囲ですから、そこまでこだわる必要は、本来ないのです。前回のときも、「そこまで細かくやっても、誤差の範囲だから、もうちょっとおおざっぱにやっても大丈夫だよー」、とは言ったのですが、「誤差の範囲」という概念が伝わらなかったのでしょう。忠告は聞き入れてもらえずに、その子はずっとそのスタイルを貫いていました。あとでスタッフみんなで、「あの子は工学部より、理学部の数学系とかそっちに向いてるかもしれないねえ」なんて言い合っていたのでした。

そういう子でしたので、その日も、「あ、また来てるな」と横目で見ていたのですが、私やスタッフがその子に対して持っていた、数字に強いというか数字好きというイメージが、「その子は結構理解している」いう思い込みにつながったのだと思います。その結果、その子に対するケアが、その日すこし手薄になっていました。

セッション後半になって、その子がコースを走らせると、ちっともうまくいかない。それで戻ってプログラムを修正してまたやってくるのだけど、今度もうまくいかない。ふつうは、壁にぶつかってしまったりしたら、そこを直して戻ってくるので、だんだんコースを走る精度が上がるものです。ところが、何度かくりかえすうちに、その子の間違いに全然脈絡がないことに気づいて、プログラムを修正するのを後ろから見たら、びっくりしました。小数点第3位までの、無用に細かい数値を使っているのは相変わらずです。まあ、それは前回もそうでしたし、それが趣味だといわれれば、短いイベントの間ですから、まあそれでもいいでしょう。ところが、その子のプログラムでは、何故か、ステアリングの回転数ではなく、秒数としてその細かい数字が指定されていたのです。しかも、速度と秒数を同時に変更しちゃっています。

レゴのEV3のプログラムには、ステアリングと呼ばれるブロックがあり、このブロックにあるパラメータの数字を変えてロボットの移動方向、移動速度、移動距離を指定します。移動距離はモーターの回転数(=車輪の回転数)で指定するのがデフォルトで、僕もイベントのときにはその方法しか教えていません。回転数を指定する限り、このパラメータ数値とEV3の移動距離は1:1の関係になり、同じ回転数であれば、速度が変わろうとも移動距離は一定です。ところが、この移動距離を、その子はわざわざ回転数ではなく、秒数というパラメータを設定して、その秒数に細かい数字を入力していたのです。

移動距離をモーターの動作秒数で指定する方法も、もちろんありなのですが、その際は速度を一定にしておかないと、やっかいなことになります。1秒間に移動する距離は、速度が10のときと、速度が100のときでは当然異なるわけですから。

迷路コースを走るプログラムは、ロボットの移動距離と回転角度の制御がすべてといってもいい内容です。そのとき、モーターの動作秒数で移動距離を調整するためには、速度の方は常に一定にしておかないとうまくいきません。そうやって秒数の数値の範囲を狭めていかないと、最適な数値を選ぶことができなくなります。

ところがその子は、これをやっちゃっていたわけです。これでは、前回の失敗の教訓が全く生きず、常に行き当たりばったりの数字になってしまいます。

これにはちょっとびっくりしました。ある程度分かってくれていると思っていたのですが、これほど分かっていないとは・・。

残り時間も短くなっていたので、ちょっとその子には、後ろから、

・なんで秒数設定にしたの?

・秒数設定でもできないわけじゃないけど、すごく難しくなるよ

・秒数設定するなら、速度を変えちゃダメだよね。なぜなら・・・

という話をしたのですが、あまりに想定外の設定をしているためにびっくりしてしまい、口調がちょっときつかったのかもしれません。結局その子は、ずっと無言で、秒数設定にした理由も教えてくれませんでしたし、速度を変えてはいけないということも、どうも理解してもらえなかったようです。結局すべて聞き入れてもらえず、その子はかたくなにその後も速度も秒数も変えるという主義を貫き通し、結局時間内にコースをクリアできずに帰っていきました。

最後にその日の参加者の無記名アンケートに一人だけ「おもしろくなかった」というところに丸をつけているアンケートが残されていました。おそらく、その子だと思います。結局その子が何にこだわっていたのかを汲み取れずに、「おもしろくなかった」という印象だけ持たせてしまったようで、非常に残念な結果となってしまいました。もっと時間をたっぷり使って、その子の「こだわりの根幹、なぜそんなに細かい数字にこだわるのか」「どうして人と違う設定をやろうと思ったのか」など、じっくり聞いた上で、何とか「非合理性」に自分で気づくようにしむけるのが正しいとは思うのですが、イベントの限られた時間だとなかなか対応できません。

人前でしゃべっていると、どうも自分のしゃべった内容をみんなが聞いているという錯覚に陥ります。でも、聞いてるような顔をしていても、一度くらいしゃべっただけではたいてい伝わっていません。特に子ども相手のイベントの場合は、「ほとんどが伝わっていない」という前提でその後のアクションを起こし、対応すべきなのでしょう。そんなことを強く印象づけられた出来事でした。


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